「低価値医療」を行いやすいプライマリケア医の特徴を分析
日本のクリニックでは、約10人に1人の患者が年に1回以上、価値の乏しい医療を受けている――。このほど、そんな研究結果が報告されました。筑波大学の宮脇敦士准教授らが、「JAMA Health Forum」に発表した研究論文です。
10の「低価値医療」とは?
この研究では、患者にほとんど、あるいは全く健康改善効果をもたらさない医療行為を「低価値医療(low-value care)」と位置づけ、プライマリケア医師の間でどのくらい低価値医療が提供されているのか、医師によってばらつきはあるのか、低価値医療を行いやすい医師に特徴はあるのか――を明らかにしています。
この研究で、「低価値医療」としているのは、次の10項目です。
<薬剤>
・風邪に対する去痰薬処方
・風邪に対する抗菌薬処方
・風邪に対するコデイン(咳止め)処方
・腰痛に対するプレガバリン処方
・糖尿病性神経障害に対するビタミンB12処方
<検査>
・骨粗しょう症に対する1年間で2回目以降の骨密度検査
・甲状腺機能低下症に対する血清T3検査
・適応のないビタミンD検査
<手技>
・腰痛に対する硬膜外、椎間関節、トリガーポイント注射
・消化不良や便秘に対する不必要な内視鏡検査
「低価値医療」の頻度は、患者100人あたり年間17回
匿名化されたレセプトデータベースを用いて、2022年10月~2023年9月の1年間に診療所(医師一人で診療している診療所)を受診した成人患者を対象に、先の10の低価値医療がどのくらい提供されているのかを調べたところ、1019人のプライマリケア医師が治療した254万2630人の患者のうち、43万6317件が低価値医療として特定されました。これは、患者100人あたり17.2件の割合です。
また、250万人超のなかで27万6622人が1年間に少なくとも1回は低価値医療を受けていたことも分かりました。つまり、約10人に1人は、1年間に1回以上、価値の乏しい医療を受けていたということです。
40歳以上、非専門医、患者数多め、西日本に多い
低価値医療を提供しがちな医師についても調べたところ、すべての低価値医療の約半数は、1019人の医師のうち10%にあたる少数の医師によって提供されていることが明らかになりました。なかでも、40歳以上の医師、専門医資格を持たない医師、患者数が多い医師、西日本で診療している医師——が、低価値医療をより多く提供している傾向が見られました。
具体的には、次のような結果が出ています。
・40歳未満の医師に比べて、40~49歳は患者100人あたり2.0件、50~59歳は2.3件、60歳以上は2.1件多い
・専門医資格を持たない医師は、総合内科の専門医資格を持つ医師に比べて、患者100人あたり0.8件多い
・1日の患者数で3つに区分すると、患者数の少ない医師に比べて、患者数の多い医師は患者100人あたり2.3件多い
・西日本で開業している医師は、東日本で開業している医師よりも患者100人あたり1.0件多い
財務省も診療所の利益率に注視
研究チームは、日本のプライマリケアでは多数の低価値医療が提供されており、「医療費の大幅な不必要な支出につながる可能性がある」と警鐘を鳴らしています。そして、低価値医療の提供は少数の医師に集中していることから、価値の乏しい医療を減らすには、すべての医師に対して政策介入するよりも、特定の医師を対象に政策介入を行うほうが効果的かつ効率的ではないか、と結論付けています。
5月27日に開かれた財務省の財政制度等審議会財政制度等分科会では、「激動の世界を見据えたあるべき財政運営」と題した意見書(建議)がまとめられ、診療報酬改定について「メリハリのある改定とすべき」と指摘されました。この「メリハリ」にはさまざまな意図が込められていますが、その一つが、外来医療費の伸びを抑えたいという意図です。
その根拠として、先の意見書では、厚生労働省が全国の医療法人の事業報告書等を集計したデータを挙げています。これによると、病院のみを経営する医療法人の利益率は 2.1%であったのに対し、無床診療所のみを経営する医療法人の利益率は 8.6%であり、「中小企業の全産業平均である 3.6%よりも高い水準」だったのです。
こうしたことから、来年度の診療報酬改定では、病院よりも利益率の高い診療所が標的になるのではないか、と見られています。具体的にどのような改定に落ち着くのか、引き続き注意が必要です。
参照
JAMA Health Forum「Primary Care Physician Characteristics and Low-Value Care Provision in Japan」
https://jamanetwork.com/journals/jama-health-forum/fullarticle/2834906
筑波大学プレスリリース
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20250607010000.pdf
財務省 財政制度等審議会
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20250527/01.pdf
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