在宅医療での暴力・ハラスメント対策――ふじみ野市では条例制定

埼玉県ふじみ野市で、医療・介護従事者への暴力やハラスメントの根絶をめざす条例「ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例」が制定され、2023年4月1日から施行されました。

これは、2022年1月に同市で在宅医療を行う医師が患者家族に射殺された事件を受けて制定されたものです。

在宅医療・介護の現場での患者や家族による暴力やハラスメントは、ふじみ野市に限らず、どこの地域でも問題になっていると思います。

 

市民の責務も定めた条例

 

「ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例」は7条で構成されています。そのうち、「基本理念」と「市民の責務」に当たる、第2条と第4条を引用します。

 

 

(基本理念)

第2条 地域の医療及び介護は、市民が地域で安心して生活していく上で欠かすことのできないものであることに鑑み、その持続可能な体制を構築するため、市、市民、医療機関及び介護事業者が一体となり、地域全体で守り育てなければならない。

2 市民の生活は、市民自らの健康の維持増進のための努力を基盤として、自らの意思決定に基づき、地域の医療及び介護を適切に享受できるものでなくてはならない。

 

(市民の責務)

第4条 市民は、基本理念に基づき、地域の医療及び介護を守るため、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、栄養士、介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士その地域の医療及び介護の担い手(以下「医療及び介護の担い手」という。)が市民の生命、健康及び生活に欠かせないことを理解し、医療及び介護の担い手が安心して従事できるよう、信頼関係の構築に努めなければならない。

2 市民は、自らの健康の維持増進及び介護予防並びに適切な医療及び介護の利用に努めなければならない。

 

半数の医療・介護従事者が患者・家族からの暴力を経験

 

この条例の制定に先駆けて埼玉県では、2022年3月から7月にかけて在宅医療・介護の現場における暴力やハラスメントの実態を把握するためのアンケートを行っていました。

在宅医療・介護従事者665人の回答からわかったことは、約半数の人が患者・利用者・家族などから暴力・ハラスメントを受けたことがあり、そのうちの半数は一年以内に受けているという実態でした。つまり、利用者側からの暴力・ハラスメントは決してまれなことではなく、身近な問題であるということです。

 

「複数名訪問加算」には利用者の同意が必要

 

埼玉県が行ったアンケートでは、暴力・ハラスメントが発生する恐れが高い患者・利用者等への対応法についても調べており、最も多く挙がったのが「複数人で対応」することでした。

なお、訪問看護においては複数名での訪問した場合を評価する「複数名訪問加算(介護保険)」「複数名訪問看護加算(医療保険)」「複数名精神科訪問看護加算(医療保険)」があります。身体的な理由により一人での訪問看護が困難な場合や、暴力行為や迷惑行為などが認められる場合などが対象となりますが、いずれも、利用者側に同意を得ることが条件となっています。

利用者や家族の暴力が原因の場合は、同意を得ることは難しく、なかには、加算は取らずに事業者側の持ち出しで複数名対応を行っているケースもあります。

 

同意を受けられない場合の補助も

 

そこで、埼玉県では、暴力行為から訪問者を守るために、複数人での訪問について利用者側に同意を得られない場合に費用を助成する「複数人訪問費用補助事業」を行っています。

暴力行為の内容が確認できる記録や主治医の意見書などを提出した上で事前協議を行い、知事が認めた場合に補助を行うという手続きが必要ですが、診療報酬・介護報酬で認められる加算額の10分の9の費用の補助を受けられるそうです。

 

実際にうまくいった「暴力・ハラスメント対策」は?

 

そのほか、埼玉県のアンケート結果では、次のような“うまくいった対応事例”も紹介されていました。

 

・利用者宅で家族の怒声を浴びせられることが引き続いていたが、管理者が別件であいさつに伺ったところ、怒声が減った。それ以降、ハラスメントに繋がりそうな利用者には、サービス担当者は様々なところと連携していること、複数の人がサービスの提供に関与していることを強調するようにしている。

 

・家族を含めた担当者会議を開催し、事実確認をしたうえで、どのサービス事業者にたいしてもやってはいけない行為であることを話し合った。その後ハラスメント行為が収まったことがあった。

 

・ハラスメント行為であることを利用者に伝えても続いていたため、本人へ契約解除する旨を伝えると、その後ハラスメント行為が一切なくなった事例があった。

 

・暴力・ハラスメントになる具体的事例を重要事項説明書に記載し、契約時に丁寧に説明することで発生率が下がった。

 

どんな行為が暴力・ハラスメントにあたるのか、利用者側に事前に具体的に伝えておくこと、そして、訪問者を一人にせず、組織として対応することが大切です。

 

 

 

◎参考

ふじみ野市「ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例【逐条解説】」

https://www.city.fujimino.saitama.jp/material/files/group/24/tikujou.pdf

 

埼玉県「在宅医療・介護の現場における暴力・ハラスメント対策の実態に関するアンケート結果について」

https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/217976/zaitakukagoannke-to.pdf

 

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